『Le Fils 息子』初演時に、観に来ていた友人の言葉が、今でも耳に残っています。
「この舞台を上演してくれてありがとう。本当に観られてよかった。救われたよ。」
この言葉を聞いたとき、途端に涙が流れました。今までの人生が報われたような気がしました。そして新たに、役者としての自覚が芽生え、舞台に来てくださる皆様に「何か」を感じていただけるために、「今後の人生を歩み続けよう」と切に思いました。
『Le Fils 息子』の再演、そして新たに『La Mère 母』の同時上演が決まったと聞いたとき、心から喜びを感じました。ですが今は、役者としての使命感に駆られています。
一人でも多くの方々を救えるように、信頼するキャスト・スタッフの皆様と共に、稽古を重ね、フロリアン・ゼレールの2作品を皆様に届けられる日を心待ちにしています。
岡本圭人尊敬し信頼するラディスラス・ショラー氏の演出で、世界が注目する劇作家フロリアン・ゼレール氏の家族三部作、全作品に出演させていただくこととなり光栄です。三作品に共通するのは、夫婦とは、親子とは、家族とは。そして人間の永遠のテーマである、生・老・病・死、そして愛と喪失。
三部作は連作ではなく異なる家族の話のようですが、私は『Le Père 父』(2019)では娘アンヌ、『Le Fils 息子』(2021,2024)、『La Mère 母』(2024)では妻であり母であるアンヌです。今回のような2作品同時上演では、同じアンヌという名前には、娘、妻、母、女、人間を象徴していて、それは観客のアナタであると感じさせてくれます。作品同士の出来事や同じ台詞がミステリーの面白さを倍増してくれます。
今回日本初演の『La Mère 母』のように子離れをする難しさは万国共通なのかもしれません。日本にも「空の巣症候群」という言葉があるのを初めて知りました。自分の居場所とは。生きる甲斐とは。稽古を前に、再会するメンバーと新たな扉を開けるトキメキでいっぱいです。
『Le Fils 息子』が再演されます。
2021年に台本を初めて読んだ時に感じた、とてつもない苦しみと、どうすることも出来ない哀しみが、信頼する演出家、役者、スタッフと稽古を重ねることによって日に日に具現化されていき、劇場では物語に引き込まれ、演じているのか何なのかわからなくなり、ただ存在した事実だけが残っていたことを思い出します。あのような辛い思いは、もう「体験したくない」というのが正直な気持ちでした。
けれども、この親子の物語をより多くの方々に観劇して貰うことが、どれだけ大切なのかも実感しています。
同時に上演する新作『La Mère 母』が描く世界には、愛の始まりから長い年月を経て、いつの間にか愛情があふれ出して、あらゆる方向に流れ、その思いをどのように受け入れて、消えゆく時間をどのように過ごしたら良いのか、限りない愛の行方を彷徨い、どこまでも巡らせてしまう作品です。
これからの稽古で、予想もつかない感情が生まれることを楽しみにしています。
この特別な二作品は、観た方の感情を揺さぶる、とてつもなく凄い作品になることを確信していますので、是非、劇場で観て感じて欲しいと心から願っています。
劇場でお待ちしています。
岡本健一